オデッセイ<火星の人>

マッド・デイモン主演の「オデッセイ」を先週末に見てきました。まだ公開されてから日も浅く、ネタバレを書きたくないので詳しい内容は控えますが、文句なく面白い映画です。とにかく、かつての、そして今の宇宙少年少女にとっては胸熱な展開。あと、理系というか、理系的思考ばんざいと思いますね。もっと掘り下げると、火星にたった一人残された主人公がどうやって生き抜くかと、どうやって助けるかということがストーリーの両軸なんですが、ちょっと前まで90年代前半から後半くらいまでは、そういう宇宙物ってかなり冷徹で、見捨てることが前提でそれをされる方もする方も納得しているというシビアな展開が多かったと思います。

でも、21世紀になって00年代がすぎて10年代になって雲行きが変わってきた。見捨てることによる心理的な影響を無視したらダメなんじゃ無いかという視点です。そして、見捨てることによるリスクの極小化よりも、見捨てないことによるリターンの極大化を目指す方向もありなんじゃないの?っていう視点です。見捨てた方がトラウマになって、そのせいで以後のミッションに支障を来したら問題だし、救うためのあらたな技術や経験の蓄積、新たな発見、サバイバル技術のマニュアル化で後の宇宙飛行士への教育の充実を図るなど、プラスの面も大きいわけです。

もちろん、そこには人的資源だけでなく、大きなお金が必要になるのですが、それをどうやって工面するのか、ということも少しですがちゃんと描かれています。単にヒューマニズムの発露だけで組織は動かないという根本の部分の冷徹さはそのまま残っていますが、でもその上に築く価値あるものを求める姿勢というのが、この映画にはとても良く描かれています。

近年まれに見る傑作だと思います。見るとこうやって、いろいろと語りたくなる映画です。具体的なことが書けないのがつらい!

見終わった後、ご飯を食べながらさんざん妻と語り合いましたが、まだ足りなくてついには原作小説を買ってきて、昨日から読み始めました。いやー、これは映画にしたくなるのもわかります。原作がすごくよくできている。そのうえで、この上下巻のエッセンスをまったくそこなわずに2時間ちょっとの映画の尺に編集しなおした脚本家と監督(リドリースコット)は改めてすごいと思いました。原作を読むと、映画は当然ディティールがものすごくカットされています。特にサバイバルの方法の部分が。ものすごく省略しないとストーリーがもっさりしますからね、映像作品の場合。でも、それが全然省略されているように見えない、いやむしろ同じかそれ以上の情報があるように「錯覚」するほど。原作と映画化作品の見事な対比を見ることができるので、映画を見られた方はぜひ原作も読んでみて欲しいと思います。

あ、原作はThe Martian、火星の人というタイトルです。そのままだと邦題としては地味だし、オデッセイ(長い冒険の旅)というタイトルは良かったと思います。