ジャコメッティ展観覧

夏コミ最終日の翌日、国立新美術館で開催されていたジャコメッティ展に行ってきました(観覧記を書くのにまごまごしているうちに東京展の開催が終わってしまいました。10/14から豊田市美術館へ巡回です)。

少雨の降るなか東京ミッドタウンからのびる地下道を通って、国立新美術館へと歩きました。この美術館までの少しの距離を歩くのが好きなんです。東京メトロの千代田線の乃木坂駅とは直結なんですが、都営大江戸線六本木駅からは少しあっていつも、そちらから歩きます。だいたい東京に行くのがお盆休みか年末の関係なので閑散としているのもいいです。

さて、ジャコメッティ展ですが、ジャコメッティの彫刻を目にしたのはかなり前で、もちろん直ではなく写真。古い芸術新潮のバックナンバーで特集していたときがあって、頭に真横から電流が通り抜けたみたいな衝撃がありました。それまで彫刻芸術にあまりぴんと来るものがなくって、彫刻を直接見に行こうという気もなかったのですけど、これは猛烈に見たいと思いました。ギリシャ・ローマ、あるいはルネッサンス的な人間の身体を写し取ったような写実的な彫刻とは全然違うから、というのはあると思いますけれど、それらの写実的な彫刻よりももっと生々しくモデルとなった人間を感じ取れるような気がしたのを覚えています。

そのバックナンバー自体もどこかに置いてあったのを眺めただけで手元にはなく、結構長いこと古本屋で探したけれど見つからないまま時間が経ちました。そうしたら、間近で実物を見れる機会がやってきたわけです。

館内は16のパートに分かれていて、かなりのボリュームがありました。これだけの作品が一同に揃うことはそうそうないと思います。本当に見に行けてよかった!上の写真と下の写真は14パートのチェース・マンハッタン銀行のプロジェクトと呼ばれるものの展示で、この展示室にある3つの作品のみ写真撮影可能でした。それだけでもありがたいです。

館内には朝10:00の開館ちょうどくらいに入ったのですが、その時点でけっこうな人でしたが、混み合っているというわけでなく、十分ひとつひとつ鑑賞できました。夏休みなので親子連れが多かったですね。小中学生がとても熱心に見ていて、何か課題ペーパーのようなものに書き込みをしたりしていました。幼稚園くらいの子どもがお母さんに「これ何のジャコメッティ?」と一体一体の前で聞いていたのが微笑ましかったです。たぶん、その子も彫刻から発せられている何かを感じて、お母さんに話したくなったのかも。それとも単にジャコメッティって発音するのが楽しくなったのかな?

この展覧会を見に行く直前に、たのしい読み物サイトデイリーポータルZでライターの大北栄人さんがまちなかにある彫刻をどうみたらいいのか?という記事を書いておられて、それを読んでから行けたのはよりよかったなと思います。記事中にありますが、彫刻って直に見たときの「情報量」がものすごくって、それを今回一番実感しました。

portal.nifty.com

一番最初に雑誌の写真で見たときの衝撃を上回る衝撃、いやじわじわ脳に浸透してくる感じの方が近いかも。そういうのが一体一体にあります。ジャコメッティの彫刻は表面が滑らかじゃなくて、いままさにそこで作り上げたような荒々しさがありつつ、長いあいだ遺跡に埋もれてたような現実との隔絶感のようなものが同居していて、そういう情報が頭を埋めていきます。実際に彼がどういう意図で製作したかはともかく。

彫刻の展示を直に見れるメリットが他にもあって、当たり前なんですけど絵と違って、ぐるっと回ってみたり、上からみたり下から見たり、横からみたりできるわけです。これが正面で、ここからしか見たらダメってことはない。視点が固定されないっていうのが彫刻の良さなんだと気づきました。ここから見るのがいいってそれぞれ違うので、絵を見るより混雑しないですし(実際、そうでした)。

わりといっぱいいっぱいになりそうなちょうどギリギリのところで展示が終わって、わたし的には助かりました。美術館や博物館って、すぐには言語化できない情報の渦のなかにいるようなものだと思っているので、これが限界ってポイントを見定めておかないとあとでしんどいです。目じゃなくて脳が疲れてしまう(なので「はしご」するのが難しい)。

ひとここち付いてから、図録を買って、ロビーの椅子でくつろぎながらクールダウンしました。カンカン照りの日じゃなくて、しとしと小雨が降る日の方がジャコメッティ展には似合うような気がします。結局、今でもジャコメッティの作品を見て、どう思うのかというのは言語化できないままですが、ただ「彫刻というもの」に対する認識や感覚が新たになった、そんな気がします。ひとかわ向けたみたいな。そういう意味で、長年の念願だったジャコメッティ展は、わたしの美術鑑賞にとって大きな転換点であったことは確かです。

もう東京展は終わってしまいましたが、豊田市の巡回展が10月からありますので、私が撮った写真を見て、もし衝撃が走った方がいらしたら、ぜひ実物を見に行っていただきたいと思います。自分の中の何かが変わるかもしれません。

(おまけ1)

国立新美術館そばの中華料理屋さん。このディスプレイが印象的でいつも気になっているのですが、なかなか入る機会がなく。

(おまけ2)

その後、東京ミッドタウンの地下街で昼食。名古屋コーチンを使った親子丼。最近のお気に入り昼食ポイントです。見た目どおりうまいよ。