「豪商の蔵 -美しい暮らしの遺産-」観覧

京都国立博物館で開かれている「豪商の蔵 -美しい暮らしの遺産-」展を見てきました。大阪は泉州貝塚で栄えた廣海家にある蔵に眠っていた約1000点の書画、茶器、調度が京都国立博物館に寄贈され、足掛け6年に渡る調査を経て、公開になったとのこと。いやはや泉州にこれほどの商家があったとは知りませんでした。もともと廻船問屋として開業し、肥料商として地域に根ざし、地域の発展に貢献してきた家だそうです。京都や北摂からはなかなか知ることができない地方の文化の力の凄さを思い知りました。まさに眼福。これが常設展の料金の範囲(520円!)で見られるなんて、なんとありがたい(ちなみにわたしはJAFの割引で410円でした。ありがとうJAF!)。

図録からいくつかご紹介します。

茶器が特に充実していて、特にこの丸棗に目が釘付けになりました。欲しい、これくださいと独り言が出ました。

煎茶器も名品ぞろい。

ある代の当主の金婚式に際して作らせた品々。ああ、美しすぎて語彙がなくなる。

この塗茶杓にはうっとり。

書画もいいものがそろっています。橋本関雪伊藤若冲のものも。芸術家支援の品々も多くあり。

じつは、これらをコレクションと言っていいのかはためらわれる部分があります。博物館による解説にもありましたが、一般的には美術品とされる今回の寄贈品は、美術と人が切り離されがちですが、これらの品々は廣海家の暮らしと生活に根ざした「家財道具」として蔵に保管されていて、美術品として展示されるものではなかったからです。今回の展示も「地域の廻船問屋」「煎茶・抹茶」「祝宴」「趣味と支援」「婚礼」というくくりで紹介され、例えば茶器であれば実際に客をもてなすために使われ、書画も祝宴を彩るものとして、あるいは日常の楽しみとして飾られたことが示されていました。婚礼の花嫁道具しかり。このような「暮らしの遺産」としてのまとまった展示というものははじめて見たような気がします。とても有意義なことと思いました。

豪商でなくてはとてもなしえない暮らしであるのは確かですが、暮らしの中に美しいものを置くという生き方は、富のあるなしに関係ないはず。生活を彩り豊かにする、その余裕があるいは商家として成功した要因ではないかと陳腐なことを考えてみたりもします。貧すれば鈍するの逆のことといえるでしょうか。

開催場所は常設展のある知新館の1Fです。図録で学芸員さんが書かれているように、とてもすべてを一同に展示することはできないので、今回はごく限られた展示です。でも、これからこの新しいコレクションが常設展で少しずつ展示されたり、あるいは他の展覧会に貸し出されてお目見えすることもあるはずで、今回の企画展示が終わっても楽しみは残りつづけるわけです。ああ、まだ見ぬ美しきものたち...。

いささか大げさになりましたけど、とにかく見ればわかります。伝わってきます。これほどのまとまった素晴らしいコレクションはそうありませんので、ぜひ会期中に足を運んで見てください。有名絵画の特別展だけが美術館・博物館に足を運ぶ機会じゃないです。油断しちゃあダメです、特別展がないときこそ、美術館・博物館の真骨頂です。特に京都国立博物館東京国立博物館は。そして、特別展がない期間=空いてます!見やすいです。ゆっくり、じっくり見れます。喫茶コーナーもレストランも空いてます。並ばなくっていいのが素晴らしい。

「豪商の蔵」は2018年3月18日まで。

(おまけ)

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 知新館の設計は谷口吉生。水辺に浮かぶ垂直と水平の神殿感、これぞ谷口吉生というエッセンスがぎっしりです。

トラりん

京都国立博物館PRキャラクターのトラりん(尾形光琳の戯画より)とも遭遇。とてもフレンドリーで名刺をもらいました〜。

紋

廊下

帰りに寄った七條甘春堂(甘味処)で、お抹茶とぜんざいをいただきました。築150年の町家だそうです。坪庭が見える廊下が親戚のうちっぽい感じで懐かしい(京都人の感想)。