海を渡ったニッポンの家具展(LIXILギャラリー大阪)

LIXILギャラリー、旧INAXギャラリーをご存知でしょうか。旧INAX時代からLIXILが手がけるアートギャラリーで、東京と大阪にあります。美術展というには規模が小さく、じっくり見ても15分足らずで見て回れる規模で、まさしくギャラリーという言葉がしっくり来るのですが、毎回興味深い展示が多く、特に建築、考現学、工芸、土木に関する展示は密度が濃いです。展示と同時に発行されるブックレットが図録にあたり、そのフォーマットが正方形で約80ページに統一されておりコレクション性が高いのも特長です。大きな書店では建築関係のコーナーでこのブックレットを取り扱っている場合もあります(LIXIL出版の発行物なので独立した書籍となっている)。

わたしはもっぱら、このブックレットを書店で購入して楽しんでいたのですが、大阪のギャラリーは旧INAXのショウルームに併設されていて、かつて一度だけ見に行ったことがあります。住んでいた京都からは少し行きにくかったのですよね。ギャラリーのトイレが最新鋭の設備で、個室に入ると便器の蓋が自動で開いたことにえらく驚きました。今では結構ふつうになってしまいましたけど。あと物販で過去の展示のブックレットを買い込んで散財したことを思い出します。

それが大阪グランフロントに移転していたことを知ったのは、つい昨日のことでした。3連休なのでどこかでかけたいなーと思い、美術展を検索していてみつけたのでした。ちなみに私は昔から美術展の検索は、大日本印刷が運営するartscapeというサイトのお世話になっています。

artscape.jp

今回の展示はタイトルにある通り「海を渡ったニッポンの家具」。明治時代に輸出向けに作られた超絶技巧をこらした工芸家具を展示するもの。出品は7点と少なめですが、内容はやはり濃かったです。

寄せ木細工も螺鈿もド派手ですが、海外への輸出ということである程度「日本」というものが誇張されている感はあります。あと、猫脚などは仕向地であるヨーロッパから取り入れたもので、その折衷が面白いです。工芸の細かさは言うに及ばず。

これらは日本にはほとんど現存しておらず、海外からの出戻り品か、輸出されずに残っていたのものだそうです。展示の解説や、ブックレットにもありますが、明治期以降の近代化の流れでこういう技巧をこらした工芸や、それを使った家具は「わびさび」とは対極にある醜悪・野卑なものとして廃されていったというのです。千利休に始まるわびさびの茶道文化が、同様にもともとあった江戸時代からつづく工芸文化を、近代化の名目で駆逐してしまったというのは興味深い歴史だと思います。日本の工芸が外国で受けるというのがわかって、一斉に外貨獲得のために輸出されたのにも関わらず、国内では次第に否定されるようになったというのは矛盾をはらんでいますよね。明治以降の文明開化・近代化というのはあらゆる場面でドラスティックで、過去の否定であったり、いわゆる「作られた伝統」がたくさん知られていますが、わびさびこそが正しいとされたというのは知りませんでした。どの時代であっても、一元的な考えが幅を利かせるのはなんとも嫌なものです。

さて、国内の状況はそうですが、海外におけるこれらの工芸品の受容も精神的にはたいして変わらないというか、日本文化の深い理解のようなものとは遠いところにあったことは確かなようです。いわゆるオリエンタリズムジャポニズムの流行がヨーロッパであった結果、そういう本来の道具としての意図ではなく、かざり・オブジェとして珍重された歴史はよく知られています。ド派手な家具はすなわち、ブックレットの解説によれば「消費のジャポニズム」の結果であり、オスカー・ワイルドが喝破した「一種の様式」である「日本」の消費の形であったと。

さて、現代を生きる私としては、そういう歴史を踏まえつつも、わびさびだけが美の姿ではないということを知っています。好みはあるにせよ、その美しさを何かに左右されることなく楽しめるというのは、とても良いことのように思えます。そう、ド派手で醜悪とされたものであっても、やや歪んだ形の消費の姿であっても、やっぱりその工芸の素晴らしさには目を見開かざるを得ません。すごく綺麗で精緻。そして何より美しい。眼福でした。

仙台箪笥の錺金具図案より、唐獅子四態。どことなく、かわいさが漂うところが好き。

かつての展示のブックレットも一緒に買いました(武田五一の建築標本)

LIXILギャラリー大阪について少し書きますと、まず以前はショウルームの併設だったので物販(LIXILブックレットの販売)がありましたが、今の場所にはそれはなく、ブックレットは見本の展示のみで、グランフロント大阪にある紀伊國屋書店で購入できます旨の掲示がありました。これは少し残念。あと、場所がややわかりにくいのです。グランフロント自体にLIXILのショウルームも移転していますが、その近くにギャラリーはなくて、やや離れています。ショウルームやショップのあるグランフロント南館の1-9Fのエリアではなく、オフィスエリアである11-18Fのうち12Fにあります。一度、9Fでエレベーターを乗り換える必要があるので「ショウルームを見たついでに」「たまたま見かけて」という理由では訪れにくい。展示があることを知っていて、どうしても見たいと思って、行き方を知っている人でないと見に来られない。これは企業ギャラリーの役割としてはちょっと残念なあり方に思えます。通常の美術館ではなかなか見られないような展示(土木や考現学的なものは特に)が多いだけに、普段興味のない人がそういう展示に触れる機会が以前に比べて減ってしまっているのはもったいないです。一応、公式のアクセスガイドへのリンクを貼っておきますね。

www.livingculture.lixil

LIXILギャラリー東京は銀座にあって、とてもアクセスがいいんですよねぇ。入り口も銀座中央通りに面しているし。

おまけ:妻が気に入って購入したLIXILブックレット。海藻とか自然物の展示企画もじつは多いのです。