メスキータ展観覧

夏コミ参加の皆さん、遅くなりましたがお疲れ様でした。サークル「山Dの電波暗室」で近代建築の写真集をお買い上げいただいた皆さんありがとうございました。また、手にとって見ていただいた皆さん、ありがとうございました。次の機会にどうぞよろしく。

サークル参加の皆さん、お疲れ様でした。今年もメカミリ分野を中心に20数冊買わせてもらいました。他の方の同人誌を読むというのは、一読者の視点と同時に同人誌を作る者としての視点でも読むことになるので、あー面白い、きーーーなんてカッコイ写真、うぉーーーなんてすごいテキスト、うーーーんこれはかなわいぞ編集...などの様々な感情が駆け巡ります。最終的にはその感情を消化した上で、自分の同人誌にどうフィードバックするのか、というところに落ち着くのですけど、明確な答えがあるわけではないです。

一人で黙々と自分の作りたいものを作って売って、というだけではなかなか自分の目指すモノにはたどり着かなくて、やっぱり他の人の作品を見るというのは重要な気がします。少なくとも自分の場合。誰の影響も受けない、というのは天才の所業だと。

だからというわけではなくて、いやちょっとあるかもしれないけれど、ほとんど単なる趣味の一貫として、眼を喜ばせるためにコミケの前後には美術館に行きます。主に東京で開催されているもの。

今年はサークル参加の前日に、東京ステーションギャラリーでメスキータ展を鑑賞しました。

この展覧会の予告を見るまでメスキータのことは全く知りませんでしたし、そもそも日本での大規模な展覧会はこれが初めてのようです。19世紀末から20世紀初頭にオランダで活躍した版画家・デザイナーで、エッシャーの師匠にあたる人だそうです。ユダヤ人であったため70歳を過ぎてから強制収容所に入れられ、そこで逝去しました。「エッシャーが命懸けで守った男」という惹句がついていますけど、実際は彼を匿って物理的に命を救ったということではなく、メスキータが強制収容所に入ったあとに、その作品をナチスの手から守って保管し、戦後になって彼を顕彰したという意味合いだと思います。確かにメスキータの作品をこれほど大量に保管したというのは、それだけで大変な役目だったと思います。今回の展覧会だけでも、版画点数は180点もあるのです。

展覧会のチラシにあるフクロウとシカの版画を見ると分かる通り、非常に精緻でこれが木版画なのか!という細かな表現で驚きました。彫りの太さを微妙に変えることで陰影を出しているかと思えば、思い切りよく省略してグラフィックデザイン的にしてみたり。

メスキータはオランダからほぼ出ることがなかったようなのですけど、見ていて思い起こされたのは今年のはじめに京都で見た「世紀末ウィーンのグラフィック」展の展示です。メスキータとほぼ同時期に活動していたウィーン分離派においても版画は重要な位置づけにあり(どちらも日本の浮世絵に非常に影響を受けています)、直接交流があったわけではなさそうなのですが、一部は似通っている部分がかなりあるように思いました。

一方でウィーン分離派の版画とメスキータの版画を比べると、前者がモチーフをほぼ完全に抽象化し、完全にグラフィック化・テキスタイル化しているのに対して、メスキータは写実性を削ぎ落としつつも、対象の本質は残しており、表現したいのはグラフィックの抽象性ではなく、そのもの自身の造形の美であるように思えるのです。

それが顕著に出ているのは彼の自画像や、動物や植物の版画だと思います。

メメント・モリ(晩年の自画像)

ところで本展覧会は一部のコーナーを除いて写真撮影不可のため、写真は図録によっています。実はこの図録がすごい!上のシマウマのページをご覧になるとよくわかりますが、見開きがぱかっと開きます。ほぼ平面。

普通、展覧会の図録というのは「無線綴じ」という製本の仕方が多いのです。大きくて大量のページがあるものの製本に適していて、手法としては各ページを背の部分で糊付けしています。なので見開きの中央部(ノド)は見ようと思っても見えないし、無理に開くと本がバラけてしまいます。それに対して、メスキータ展の図録は「糸かがり綴じ」というようです(形状から判断)。図録でこの綴じ方をしているのは初めて見ました(たぶん、コストの問題)。

少ページの冊子の場合、中綴じ製本といって、紙を重ねて真ん中でホッチキスで綴じるのですが、この場合は見開きが可能です。紙の枚数が多くなるとその厚みで見開きの中央がページによって段々ずれてしまうので、図録にこの方法は使えないのですけど、この中綴じ製本を少ページ単位で糸で綴じ、さらにいくつも束ねて背でまとめて止めた形が糸かがり綴じです(たぶん)。*twitterでつぶやいたときは「アジロ綴じ」と書いてしまいましたが、誤りです。すいません。アジロ綴じは無線綴じの一種です。

糸かがり綴じかつ、非常に凝った装丁です。主催者がどれだけ、このメスキータの作品を図録でもきちんとその表現を再現したいと思っているのかが伝わってくるようです。

東京ステーションギャラリーでのメスキータ展は明日8/18で終了ですが、その後以下に巡回します(日曜美術館風に)

関西には来年2020年4月4日から6月14日まで、西宮市大谷記念美術館(行ったことないけど)で見られます。来年、もう一回見に行くつもりです。

 

えーっと、当初は今日見に行った「タラブックス」展についても書くつもりだったのですが、また改めて(こちらも8/18までなんですが、今度は福岡に巡回します)。