2023年の秋頃にふとした思いつきでレコードプレーヤーを買って、以来ほとんどCDは聞かずにレコードを鑑賞してばかりいる。正月休み(今日は2024/1/1)なので、現在までのレコード生活についてまとめておきたい。
(1)きっかけ
Twitterでフォローしているラジ先生(心理学の先生だが語尾の「ラジ」でよく知られている)がレコードの盤面の写真をよく掲載されているのを見続けているうちにレコードに興味を持った。別の機会に久しぶりにタワーレコードにCDを買いに行ったところ、中古ではなく新譜レコードを販売するコーナーにかなりスペースが割かれていて、あれいつの間にか世の中はレコード時代に回帰していたのだということに気づいた。
なお、幼いころ祖父の家や実家にもレコードプレーヤーはあったものの、子どもが触っていいものではなかったというのはあるが、祖父も父も母もプレーヤーを持っている割にはレコードをほとんど鑑賞していなかったため、レコードを通じて音楽を聞くという経験はそれまでなく特別な思い入れはなかった。
(2)自宅の音楽環境
社会人になって初めてのボーナスで単品オーディオセットを買った。据え置きCDとアンプはDENON、スピーカーはB&Wで全部で 20万円ほど。スピーカーに関しては家電量販店の高級オーディオコーナーでしつこく試聴させてもらったのをおぼえている(店員さんもオーディオに精通した方で音の好みを相談した)。実家の自分の部屋に据え付けたのだが、父親が音を出すことにうるさい人で夜に聞くことはできず、せっかく買ったのにヘッドホンで聞く機会の方が多かった。以来、実家を出て2度引っ越しをしたが常にオーディオセットは持っていった。ただセッティングはするものの音楽をじっくり聞く機会はなく、次第にポータブルオーディオとヘッドホン・イヤホンの世界に傾注していった。
(3)レコードプレーヤー購入
タワーレコードでレコードが買えるということを知ってから、プレーヤーを買ってとにかく聞いてみたいという思いが高まりヨドバシカメラに実物を見に行くことにした。レコードを聞くにはプレーヤーとアンプとスピーカー、それにフォノイコライザーがあればいいという知識はあった。持っているアンプにはフォノイコライザーが内蔵されているので、プレーヤーだけ買えば良い。
初心者なので金額は出せないがあまりチープなのは避けたいと思い、オーディオテクニカのAT-LP3XBT(実売33000円ほど)を選んだ。在庫が潤沢にあり、ヨドバシもおすすめ(それなりに値引きしていた)だったからというのもあるが、事前に調べたところオーディオテクニカのウェブで該当機種のセットアップ方法が動画で掲載されていたのが大きかった。レコードを聞くまでにはいくつかの初期設定が必要で、その部分をちゃんとわかりやすく説明しよう=初心者に優しくしてレコード人口を増やそうという意思が感じられたから。最近、よく言われることだが初心者をないがしろにする趣味界隈は滅びやすくなるという。その動画実際、とても助かった。
(4)セッティング
配線としてはレコードプレーヤーとアンプをRCAケーブルでつなぐ、アースケーブルをアンプにつなぐだけ(フォノイコライザーがアンプに内蔵されていなければ先にそちらにつなぐ)で他のオーディオ機器と変わらない。レコードが特別なのはそのあとで針圧のバランス調整がいること。レコードは針を溝に落として、それをカートリッジというもので増幅しているが、この針とレコードの接触の圧力が適切でないときちんと音が拾えないらしい。そのための最初だけその調整をする。レコードがない状態で針+カートリッジがついたトーンアームが水平になるようにトーンアーム後端についているカウンターウェイトの位置をずらすのだ。これがけっこう難しい。水平になったらウェイトについた目盛りを回してついている針(針とカートリッジは通常交換できる)にあった針圧になるようにする。買ったプレーヤーについている針は2目盛り動かすように指示があった。そして、そこからさらにアーム基部にあるアンチスケーティング調整ダイヤルを同じ分だけ回す。このあたりの調整方法はアームの種類によって違うらしい。
(5)レコードを買う
プレーヤーを買う前にレコードそのものがないと意味がないのでヨドバシで聞いたところヨドバシ店内では展示用にガラスケースに収まっている10枚ほどのレコード以外は売っていないという。タワーレコードなどで買ってくれと。そうか、CDやDVD、ブルーレイのコーナーも縮小傾向だから仕方ないか...と思い、少し離れたタワーレコードへ行き、新譜のレコードを2枚購入。知らないアルバムを買うのは勇気がいるのでCDで持っているJazzアルバムの定番、Miles DavisのKind of Blueと、Bill EvansのPortrait in JAZZの2枚を買った。どちらもCDはBlue Noteからの発売だったと思うが、レコードは複数のメーカーから出ている。DOLというブランドのものを選ぶ。調べてみるとちゃんとライセンス契約されたものらしく他の店でも同様に扱いがあった。同じアルバムでも3000-4000円から、ものによっては1万円を超えるものもありCDに比べて割高なのは確か。値段の違いが何に起因するのかはわからないが、一部重量盤( 180g )というものがありそれは音質に寄与するらしい(重い方が盤面が安定しやすい)。重量盤が必ずしも高いわけではないようだ。
(6)セッティング後、音出し
アンプのフォノ端子につないだことはこれまで一度もなかったのでちゃんと音が出るのか不安だったが、針を載せるとちゃんと音が出た。音が出るというだけでおおーっとなるのだが、レコードを乗せる、アームを動かす、ターンテーブルが回る、針を落とすという一連の動作がそれだけで面白い。ハッセルブラッド500Cという中判カメラの操作にもにてお作法(というほど難しくない)というか手順があるのが新鮮である。なお、購入したプレーヤーはオートでトーンアームが動いて適切な位置に自動で針を落としてくれる。レコードの最後の曲が終わると自動でアームが元の位置に戻る。マニュアルでも可能。このオート機構がないプレーヤーもあるが初心者には絶対あったほうがいい。最初に針を落とすのは別にいいのだが、聞き終わったあとに手動で戻すのはけっこう面倒だし、忘れるとレコードの最後(もっとも内側の円周)でくるくるいつまでも周りつづけてしまうから。CDとちがってLPレコードの片面は最大30分ほどしか収録できないし、レコードの特性上外周の方が音質がいいため30分より短い単位でしか収録されていないレコードも多いから、聞き終わるのはけっこう早いのだ。
(7)CDとレコードで音はちがうのか?
この問いに関してはYESだと思う。理由はあとで書く。では、どちらが音質が良いかという問いならばどうか。これは明確にどちらが良いと言えない。何をもって高音質というかと定義を考え出すとキリがないのだけど、たとえば音の解像度やノイズの少なさ、音量や音域の聞こえ方というものは音の出る部分、つまりスピーカーやイヤホン・ヘッドホンの質に一番左右される(わたしの経験上)。なので同じスピーカーで聞いたときにはCDとレコードの違いを指摘することはたぶん難しい。レコードの方が温かみ(?)があるという指摘はよく目にする文章だがこれは曖昧すぎて美化していると思う。音の傾向としてはCDの方が全域に渡ってクリアで、レコードは音域によってクリアな周波数(低音域、中音域、高音域)が違うのでその違いは同じアルバムで聴き比べるとわかるかもしれない。
では、わざわざレコードで聞く理由があるのか、CDの方がいい理由はあるのかというとそれぞれ明確にあると思う。このあとに述べるレコードの音質向上のあれやこれやを経てわかったのは気軽に良い音を聞きたいならCDの方が手軽だ。CDは再生機器による音質向上の違いは確かにあるけれど、プレーヤーに入れるだけで良い音が聞けることがかなりの高確率で保証されている。そこがすごい。特に音質を向上させるためにユーザーがすることはないから楽。逆にできることがとても少ない。できることをやっても、そんなに劇的に変わらない(スピーカーとアンプで変わるが好みの部分が大きいというのが私の感想)。
それに対して、レコードはぱっとつないで音を出すと場合によってはCDよりもアレ?クリアじゃないとか、ボーカルが聞こえにくいとか、低音があまり出てないな?ということがままある。そういうときに、手間と時間をかけると目に見える形というか、はっきりと音質向上を指摘できる確率がむっちゃ高い。そして、その方法がすごくたくさんある。そこには理屈がちゃんとある。CD時代にもそういう音質向上テクニックはよく聞いたが、元祖はアナログレコードの世界のテクニックだったんだとわかる(ただCDではその違いをはっきりと認識しづらい)。
*たとえば時間ということでは、アンプが通電してすぐよりも、30分くらい音を出したあとの方が音の張り出しがよくなる。だんだん定性的な話になっていくのだけど、これはCDを聞くときでも実は同じでアンプの特性によるものだったりする。真空管アンプの場合だとこれは顕著だ。ただ、CDはアンプがまだ暖気状態のときでもしっかりした音が鳴るので気づきにくい。レコードはアンプが本気出して来たなーというのがわかりやすい。
**このアンプの「暖気」については、クルマのエンジンと同じで現代車なら必要ないと言われることもある。レコードの場合やった方がいいと個人的には思う。
そんな曖昧なことを言われてもなーと読んでいる人は感じると思うので、もっと具体的にちゃんと音質向上させるためにやったことを書いてみる。
(8)針を交換する
オーディオテクニカはもともとレコードのカートリッジを作っていた会社だそうで、今もつくっている。カートリッジは針で音を拾い、それを増幅する装置のこと。プレーヤーはこの部分を交換することができる。買ったプレーヤーはオーディオテクニカ製で、カートリッジもオーテク製。オーテク製はこのカートリッジのうち、針だけを簡単に交換できるシステムになっている。針を変えたら何がどうなるんだ?という部分は下記のウェブ記事を読んでください。簡単にいうと、針の先が丸か楕円かでレコードの溝に対する追従性が違い、楕円の方が細かい音の変化を拾えるので解像度があがるのだ。
わたしの買ったプレーヤーにはこの記事で紹介されている接合丸針というスタンダードなものがついているので、この針を接合楕円針に交換してみた。カートリッジ本体を除く針だけの値段は2800円ちょいに対して、6000円ほどで約2倍の価格差がある(これより上級のものもだいたい2倍ずつあがっていく)。つけかえはむっちゃ楽で、ちゃんとシステム化されているなーとわかる。で、音はおおおー、クリアだ。今まで聞こえてなかった楽器が聞こえるし、強弱もはっきりする。アンプのボリュームをあげることなく音楽の全体がちゃんとわかる。。。はっきりいってここまで明確に違いが出るとは思ってなかった。違いがわからないにしても6000円ならなんとか耐えられるくらいの気持ちだったのに。丸と楕円でここままで変わるとなると、その上にある無垢楕円針に変えてもちゃんとわかるんだろうなという気持ちになってとても危険だ。13000円の針に交換したくなってしまう。とりあえず、今はこれで十分だと言い聞かせて他のことも試し見る。
(つづく)次回はもっと基本的なホコリをなくすとか、外付けフォノイコライザーの話をします