スペイン旅行記(4)プラド美術館、12世紀のイコン

 スペイン旅行記のつづきです。前回はゲルニカを見に行ったところまででした。

www.dempa-anshitsu.org

 

f:id:gyama_d:20151229002619j:plain

ソフィア王妃美術センターから、北へ最短距離で行くと10分かからないのですが、古本市を見ているうちに東へ東へと移動してしまっており、気がつくとレティーロ公園の方まで来ていました。この公園の敷地面積は地図と見るとものすごくて、プラド美術館が20個くらい入りそうです。なので、こちらをついでに散策とかしていると時間が足りないので、そこから北上してプラド美術館の裏側の方へ迂回して進みました。

写真に写っているのは正面の入り口ですがここは閉ざされていて、北側か裏正面、あるいは南側から入館します。われわれは北側の通称ゴヤ門(ゴヤの像が建っている)へ向かいました。時間は12時少し過ぎで、50人くらいの列ができていましたが、チケット売り場は4列あるのでさくさくと進み、10分かからずチケットを買えました。

チケットはカードで購入。現金をたくさん持ち歩くのはお薦めしないと、どのガイドブックでも書いてあったので、可能な限りカード決済しました。マドリードバルセロナではほとんどあらゆる所でクレジットカードが使えます。場所によっては露店でも、携帯のカード端末を持っています。サインではなく暗証番号入力が必要です。あ、入力のあと、カードによってはユーロ建てか、円建てかどちらかを選ぶように言われることがあります。この時、円建てを選択すると、紙か端末の画面にサインを求められました。どちらを選んでも大した額の差はないと思います。使えるカードは、ほぼVISAかMASTERで、JCBやAMEXが使えるところは非常に少ないです。"NO AMEX"って書いてあるお店もありました(JCBは論外なんだと思います)。

チケットを持って、いったん外へ回って階段を昇って2階の入り口へ。ここでちょっと混みます。荷物のX線検査があるためです。先のソフィア王妃美術センターでもX線検査がありました。その先にクロークがありますが、混んでいたのでそのまま館内へ進みました。ゴヤ門の入り口にはコインロッカーなどは見当たりませんでしたが、裏正面の入り口の方はロッカーや大きめのクロークがありました(本館に併設された建物なので施設が充実している模様)。中は相当広いので、荷物や上着は預かってもらって、身軽になる方が良いかもしれません。

さてここからは鑑賞に入りますが、インフォメーションで地図をもらった方がよいです。そのうえで「自分が見たいと思っている絵をピックアップ」するのがいいと思います。先ほども書きましたが、とにかく広いです。平面に広いうえに展示スペースは3階分ありますので、ひとつひとつじっくり見るのは不可能でないにしても、疲れるし意味がないです。似たようなテーマの宗教画や肖像画がまとめられているので、全部見ていると確実に飽きます。感受性の強い人だと、はじめの5分くらいで脳内処理が追いつかずにパニックを起こすかも。それくらいすごいコレクションなんです。プラド美術館のHPには推奨コースが掲載されているので、参考になります。と、こんなことを書いているのはわれわれがノープランだったからです。いきあたりばったりで、とにかく「嗅覚」に頼って動きました。

われわれが気に入った展示は、まずエルグレコの宗教画です。たまたまエルグレコルーム的なものを見つけたのですが、他の宗教画にはない荒々しいタッチがかえって宗教的渇望のようなものや、絶望のなかの光明みたいなものを見せられている感じがして、感銘を受けました。あと、絵画以外にも彫刻なども展示されていますが、その一つ石づくりのテーブルもいたく気に入りました。テーブル表面は様々な種類の石が埋め込まれた見事な細工、そしてテーブルの脚にはそれぞれ玉を持ったライオンの彫像がくっついています。ライオンはスペイン王家の象徴だったと思います(翌日訪れた王宮にもたくさんあり)が、ライオン好き(というか猫科すべてを愛している)妻の琴線に触れたようです。

その後、いろいろな部屋をさまよって、いい加減疲れた(昼食を取っていなかったのうです)ころに、文字通り迷い込んだ部屋がありました。1階の北側奧くらいだったと思いますが、正確な場所はわかりません。そこは12世紀のキリスト教教会の内部壁画を建物の構造を再現してまるごと見せる部屋でした。少し暗い照明のなかで見た、そのイコンは絵画技術がまだ未発達な、ルネッサンスの頃のような写実とはまったく異なる素朴なタッチのキリストや使徒の絵が並んでいました。それまで疲れ切っていた心身がふっと軽くなり、あがっていた息が急に楽になりました。なんだったのでしょうか、あれは。それまでさまざまな絵に圧倒されて、いっぱいいっぱいになって、あたかも力を吸収されていたのが一転して、あたたかい何かに手を触れたかのような心持ちでした。

日本でもそうですが、絵画や美術品を見るのって、ものすごくエネルギーがいるのですよね。作品の持っているエネルギーにあてられないよう、見る側としては万全の体調が必要だったりします。そういう気負いがまったくなくなったのが、そのイコン画で、それはもともと「美術品」ではなかったからなんだろうなーと今にして思います。教会で信者だけが目にする。そのイコンによって、キリストの世界に近づくためのもの。だから、見るものにエネルギーなんていらないのだと思います。この絵を見たことで、ああプラド美術館に来てよかったと心の底から思えたのでした。

 

その後、裏正面の建物へ入り、ショップを目ざしました。ここは鑑賞の拠点ともいうべき場所で、ミュージアムショップの他、書店やレストラン、クローク、ロッカールームなどがありました。ガイドブックには絵を効率的に見るならゴヤ門とあったのですが、じっくり腰を落ち着けて鑑賞するつもりなら、こちらの入り口から入ってルートを練った方が良いように思いました。あいにくと、好みのグッズがなかったので、何も買わずに退散しました。昼食も食べずに見て回るというのは、ちょっと無謀だったかもしれません。

お気づきかもしれませんが、ゲルニカを見るのと、プラド美術館へ行くのはできれば日を分けた方が良いと思います。体力的にも脳内処理的(芸術許容バッファ)にも。もし、同じ日に行くならゲルニカを先にした方がいいかもしれません。ソフィア王妃美術センターのコンテンポラリーアートは素晴らしいものがありますが、濃度というか密度みたいなものはプラド美術館の方が相当強いので、プラドを先に見てからだと、ちょっと肩すかしをくらうような気がします。脳内で切り替えがうまくできる人なら、食後の一服みたいな感じでコンテンポラリーの方を見ることができるかもしれませんが。

(つづく)