合唱演奏会舞台撮影のための覚え書き(2)ノウハウ編

前回はどういう機材がいるかという話をしましたが、つまるところ静音撮影機能があるカメラを用意しましょうということでした。 

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今回はもうちょっと具体的なノウハウです。

○機材について補足
あ、その前にバッテリーの話を忘れてました。予備バッテリーは持っていきましょう。演奏会本番は20分、20分、休憩、20分、20分、くらいの構成が多いのでバッテリー切れの心配はないと思いますが、リハーサルを撮影する場合は長丁場です。リハーサル用、本番前半用、本番後半用と3本あると便利です。なければ、2本。冬場は屋外の移動でバッテリーが冷えます。会場についたら手で温めてから使うと本来の性能を発揮できます。

前日に充電を確認しておくことと、カメラにSDカードが入っているか、正常動作するかまで確認しましょう。このあたりは結婚式や披露宴、二次会の撮影ノウハウとかと同じです。最近は本体にバッテリーを入れたままUSBケーブルでモバイルバッテリーから充電or電源供給できる機種が多いので、それらも用意した方が安心です。都市部のホールだと万一SDカードを忘れても買いに行くことは可能ですが、地方のホールはたいてい家電製品を売っているようなお店から離れているので…(昔、演奏会のビデオ撮影に必要なテープを忘れて往復1時間かけて買いに行ったことがあります...)。

【重要1】もうひとつ、静音撮影機能があることが前提ですが、この設定は前日にONにしておきましょう。デフォルトではOFFになっているはずです。当日、現場で設定メニューの中から探そうと思ってもたぶん見つかりません(断言)。どこにあるかわからず、暗い場所で焦りながら探すので余計に。

【重要2】設定の中に「AF補助光ON/OFF」機能があると思うので、これも前日に「OFF」にしておきます。AF補助光というのは、暗い場所でオートフォーカスするためにピントをあわせる一瞬だけ光る赤い光です。これ、赤くピカッと光るのですごく目立ちます。ホール内は目で見ているよりもカメラにとっては暗い場所なので、そのままでほぼ間違いなくAF補助光が自動で発光してしまい、演奏の妨げになります。OFFにしても舞台上の照明があればピントが合わないことはまずないです。

【重要3】2と同じ理由ですが、フラッシュは発行禁止にしておきます。機種によっては意図的にフラッシュをポップアップさせない限り光らないものもありますが、とにかくどんな状況でも光らないように設定しておきます。これも前日です。当日にやろうと思っても焦って設定方法がわからなくなります。

つぎにいよいよ撮影場所に行ってからのはなしです。

○会場にはいつ行くか
撮影の依頼はリハーサルから撮って欲しいという依頼と本番だけでいいという依頼の両方あると思いますが、どちらのケースでもリハーサルから行かせてもらうことをおすすめします。理由はけっこうたくさんあります。

・カメラのリハーサル
慣れない場所で、一回きりの演奏をいきなり間違いなく撮るのは緊張します。場に慣れることと、カメラが正常に動くかを確認する時間があった方が良いです。もし、もしもカメラが壊れてしまっても、リハーサルの時間であればそこから挽回できる可能性が高いです(カメラを借りる、別のものを取りに戻る、最悪カメラを買う!という選択肢も)。

・場当たりをする
演奏中に撮影できる場所は限られているので、それをホールの人や合唱団の人や合唱団に任されているスタッフと直接確認しましょう。演奏者から目に付きすぎる場所だと演奏の妨げになるかもしれないので。本番直前には慌ただしくてできません。

・【重要】照明の確認(ホワイトバランス調整)
このノウハウの中で一番重要です。カメラの設定の中にホワイトバランス機能というのがあります。たいがいはAUTO設定になっていますが、演奏会のホールはご存知のとおり、暖色系の照明(電球色 or 昼光色)が灯っています。AUTO設定のまま暖色系の灯りで照らされたものを撮影すると、白っぽいもしくは青っぽい色になって意図した色合いにならない可能性が高いです。AUTO設定ではなく、「目で見ている色に近い」ホワイトバランス設定を探しましょう。

ホワイトバランス設定の中には「電球色」と呼ばれる設定があるかもしれませんが、これは選ばない方がいいです。「電球色」の設定は、電球食の色合いを補正して「電球の灯りっぽくなくする」ための設定です。電球色じゃない設定(日陰、曇天、蛍光色など)の中から、モニターを見ながら、ホールっぽい灯りに映る色になるものを選びましょう。

見た目が電球の灯りで照らされたっぽい感じが、いわゆる演奏会っぽい写真に近いのですが、ホワイトバランスはカメラによって微妙に違うので、白っぽくなくても、黄色っぽくなったり、赤っぽくなったりするので、何枚か別々の設定で撮影してしっくり来るものを探しましょう。

もし、このホワイトバランス調整をミスってしまっていても、撮った写真のホワイトバランスはあとで画像ソフトで自動補正できますが、たくさん撮影している場合、それも大変なのでできれば撮影前にしっかりやっておきましょう。

そのためにもホワイトバランスの調整はメニューのどこでできるのか?色合いがどう変わるのか?は前日までに把握しておきましょう。

えーっとリハーサルから行く理由、まだあります。

・舞台進行の確認(照明、ステージオーダー、ソリスト
照明の確認はさっきやったじゃないですかーと言われそうですけど、こちらの確認は舞台演出における照明が、どのステージのどこで変わるのかの確認です。通常は全照(照明100%)状態ですけれど、曲によって照明を落としたり、だんだん落としたり、だんだん明るくしたりという演出をする場合があります。全照状態ならピントもすぐあって撮影もしやすいですが、50%くらいになるとピントが合わせづらくなります(AF補助光もOFFにしていますから)。この場面はとりづらくなるのでマニュアルフォーカスに切りかえようとか、絞りを開こうとかいう判断が要ります。突然だと慌てるので事前にわかっている方が良いです。

また、ソリストがいる場合、スポットライトが当たるのか当たらないのか、当たるならソリストはそのときにどの位置にいるのか、そもそも誰がソリストなのかを事前に把握しておきましょう。でないとソリストオンリーの写真やアップの写真が撮れません。慌てている間にソロが終わってしまう可能性があります。

ソリストと同様ですが、ピアニスト、パーカッショニストがいる場合もあります。ソリストと違って位置は固定されますが、どのステージに登場するのかを把握しておく方が良いです。

もうひとつ、ステージごとにオーダー(並び順)が変わる可能性があります。並びが変わるだけでなく、広がったり、固まったり、二群に別れたり、いろいろなオーダーがあるので、このステージではこういう風になるから、こういう風に撮ろうというのを考えられます。

・横顔が撮れるのはリハーサルだけかもしれない
本番の撮影は基本的に固定位置になるので、歌い手の横顔を撮るのは難しいです。リハーサル中なら客席内を移動して斜め方向から撮影できるので、構図のバリエーション自体が増えます。この場合、合唱団の許可なく舞台には乗らない方が良いです。リハーサルは本番ではないというだけで、歌っている方は集中してやっています。必死です。演奏に無関係な人が舞台に上がってくるのはプレッシャーというか気が散ります。

・オフショットが撮れるのもリハーサルだけ
撮った写真の扱いは別に触れますが、演奏会の記録としては「歌っていないとき」もあったほうがいいと個人的には考えています。指揮者の指示を受けているときの表情、休憩時間の仲間とのやり取りなどなど。団内の雰囲気というのはそういうときに出やすいもので、本番と違う真剣さもときには現れたりもします。合唱団からの依頼にもよると思いますが、リハーサルも撮って欲しいと言われたとき、わたしは一応そこまで撮ります。おこがましいかもしれませんが、この一回きりの演奏会の記録というか思い出の手助けとして。プロの演奏会とは違うので。

余談になりますけど、紙焼き時代の写真撮影をプロカメラマンに依頼した場合、その収入は主に紙に焼いた写真をどれだけ団員が注文してくれたかによります。なので、誰も買わないようなオフショット(修学旅行写真的な観点からの需要はあるかもしれないにしても)は撮らないか、撮っていても紙に焼かないです。でも、わたしのような素人カメラマンはそのデータを合唱団へ渡すだけなので、オフショットがあっても別に問題はありません。

・リハーサル終わりに集合写真を撮る
たいがいの素人カメラマンへの撮影依頼は、この集合写真を撮ることが目的だったりします。ステージマネージャーやお手伝いする人なども含めた写真というのは、本番では撮れないので。しかし、もし集合写真の撮影が予定されていなかったら、余計なお世話かもしれませんが、提案してみることをおすすめします。合唱団の演奏会は一期一会的なところがあって、毎年毎回同じメンバーがオンステしているとは限りませんし、客演指揮や客演ピアニストも同じではないことの方が多いでしょう。その思い出に集合写真は実は良いと思うのです。自分の歌っている姿よりも、集合写真一枚ある方がいいという人もいるかも(わたしはそのタイプ)。

さて、リハーサルから行きましょうというだけで、かなり書いてしまいました。本番の撮影に関しては別途、「構図編」として記事を書こうと思います。あ、もうひとつ重要なことを。リハーサルから行く場合、「ホールのどこから入って、どこへ行けばいいのか」を事前に合唱団の人に聞いておきましょう。ホールによって全然違うのですが、入退場管理が厳密なホールでは、歌い手も合唱団側スタッフも決まった場所から、予めリストにある人しか入れないということがあります。ふらっとやってきても入れてもらえないし、入れてもホールのバックヤードは複雑なので、知っているホールでなければ舞台や客席にすらたどり着けないこともあります。できれば、合唱団の人と一緒に入場する方が安心です。

(つづく)