日本の家、1945年以降の建築と暮らし観覧

コミケ第1日目の日、わたしは東京入りしてすぐ、ビックサイトには行かず竹橋にある東京国立近代美術館に展覧会「日本の家、1945年以降の建築と暮らし」を見に行きました。(展覧会→コミケコミケ→展覧会は、最近の夏コミ時のわたしの行動パターン。冬コミのときはそもそも年末なので美術館などは休みに入っている)

建築、それも個人の住宅をテーマにした展覧会ははじめて見ました*。特定の建築家をとりあげて、というのはあったかもしれませんが、この規模で多くの建築家の作品やその背景を掘り下がるこころみは非常に見ていて面白く、個々の住宅についての断片的な知識がつなぎあわさった感覚になりました。

*この直前にパナソニックの汐留ミュージアムでも同様の展覧会が行われていたようなのですが、そちらは未見でした。

戦後の日本の住宅というものに原点や基準的なものは存在しないという立脚点から、13の系統に分けて各建築家のしごとを見つめていく構成で、1-3のあたりまでは撮影NGでしたが、4-13までは撮影OKとなっていました。2のあたりで、中銀カプセルタワービルの建築映像と設計者である黒川紀章のインタビュー映像がありました。これは必見かなーと。あのカプセルをこうやって組み立てて、こうやって搬入して、こうやって備え付けたっていうのがわかるのは映像の強みですね。図面からはなかなか想起しにくい。そして、若かりし頃の黒川紀章の芸術家然とした厭味ったらしい感じの受け答えと語りは今となっては貴重かも。あんなタイプの建築家はもういなさそうなので。

そもそも建築家が一般マスコミ(TV、新聞)に取り上げられて、その代表みたいな顔になる人って、いまは安藤忠雄くらいかなぁ。一時代にひとりくらいですよね。当時は黒川紀章が建築家そのものであり、今は安藤忠雄が建築家とイコールで結ばれているのが一般的なんでしょうけど、この展覧会を見終わったひとは、それは正確ではないと知るという意味でも、この展覧会の役割は重要なように個人的には思いました。安藤建築の住宅で取り上げられているのは住吉の長屋だけですし。

ただ、個人の住宅を作るのを良しとしない磯崎新(「住宅の射程」)という建築家もいるわけだから、その見方も一面的なものですね。

展示の中では、清家清の「森博士の家」*の一部が原寸大で再現されているのが目を引きました。靴を脱いで中を体験できるという。これが桂離宮から想起されたかどうかは、やっぱり桂離宮に行ってみないとわからないなーというのが正直なところですが、障子にしろ、直線と直角で構成されたこの空間の佇まいは、やはり他にはないわびさびのようなところは感じました。*twitterに書いたときは「自邸」と書いてしまいました。すいません。

基本的にスチール写真と設計図、それと模型、解説で見せる展覧会なのですが、ところどころに「その家で暮らしている人へのインタビュー」映像が流れていて、これが抜群に良かったと思います。篠原一男の「上原通りの住宅」という家は、家の中のリビングの真ん中に斜めにコンクリートの柱がY字状に建っているという特異なものでしたが、実際に住んでいる施主(故人)の奥さんと、息子さんのインタビューがあり、Y字の柱に家人がぶつかったことも、ぶつかった来客もいないし、邪魔だと思ったことは一度もないという話が、生で生活している人にしかわからないことなので、それが聞けたのは良かったなーと。あと、収納の無い住宅なので、家の中をどう構成するかはよく考えないといけなかったと。そして、収納はなくても暮らせる(ないからモノを置かないということではなく)ということを示唆していて、それも非常に印象に残りました。

これは藤森照信センセイが設計した赤瀬川原平邸「ニラハウス」の指示書。ニラハウスの設計があまりにも変というかめんどくさすぎて、施工してくれる工務店がなかったので「縄文建築団」という有志で作業したときのものだとか。このエピソードは知りませんでした。

そうそう、今回の展覧会を見ていて思ったのは、その藤森照信センセイの著書「藤森照信の原・現代住宅再見」(1−3巻)をそのまま展覧会に落とし込んだかのようだということです。13の系列のほとんどの家について、この著書でセンセイは訪れたり、インタビューしています。この本を読んでいると、この展覧会がより楽しめるのは確かだと思いますよ。

これは菊竹清訓のスカイハウスの模型。写真と図面しか見たことなかったので、ほえーっとなりました。

これはコルゲート管を使った住宅なんですが(さらっと書いたけれど実物の写真や映像を見るとびっくりするくらい「基地」っぽいです)、「元祖」である川合健二の「ドラム缶の家」ではなく、弟子にあたる石山修武の「菅平の家」。石山が設計だけして、設計図を施主の石橋さんに送って、その石橋さんが「自分で」建てた家。石橋さんのインタビューが実直で面白かったー。

外周をU字型の廊下が通っている住宅。現存するはず。

しきりのない家。これも現存。

写真撮り忘れましたがが、東孝光の「塔の家」の模型が見れたのも嬉しかった。狭小住宅の走りのような家で、コンクリート製のステップフロア構成は見ていて(模型だけど!)、本当にわくわくしました。以下は、藤森センセイの本から。

さて、十分に堪能できた展覧会でしたけど、日本の家、それも戦後という意味では団地が一切触れられていない(集合住宅という意味では中銀カプセルタワービルが唯一)のがちょっと物足りないというか不可解でした。建築家が関わった住宅という意味では13の系統からは外れるからと考えるべきなんでしょうね。それに団地そのもので独立した、これと同規模の展覧会が開けそうな気がしますので、この展覧会を企画した関係各位に次はぜひ団地をお願いしたいなーと思うのです。

 

おまけ1:東京国立近代美術館の穴場である休憩所。奥まったところにあるので、気づいていない人が多いかも。ここは展覧会の余韻に浸るのにとても良い場所。落ち着きます。 

おまけ2:竹橋というと、毎日新聞社のこの円筒のビルが好き。来るたびに写真を撮っている。