2017年読んでよかったもの

昨年に引き続き、今年読んでよかった本を紹介します。昨年の小説以外部門の個人的一位は「女の子は本当にピンクが好きなのか」でした。今年はいきなり発表します。

はい、圧倒的大ヒット「応仁の乱」(呉座雄一著、中公新書)です。本屋で見るより先に、twitter上で話題になっていて、すごい部数が伸びているという話を見たのが最初だったと思います。京都人としてはやはり応仁の乱はジョークじゃなくて(「京都では『前の戦争』とは応仁の乱のこと」などとよく言われる件)、しっかりどういう戦争だったのかをしっておきたかったので読むことにしました。京都の主だった歴史建造物は応仁の乱以降に遡れないものが多くて、それだけ壊滅的なダメージを受けたということなのに、わたしたちはこの戦争のことをほぼ何も知らないというのはあかんやろーと勝手に思ったわけです。本書を読んで一番意外だったのは、応仁の乱の遠因のひとつが興福寺による奈良支配のあり方に端を欲しているということでした。「京都の歴史」という視点だけで見ると、全貌は全然見えないわけです。もう一点、興味深い内容だったのは「階級闘争史観で歴史を見るのはいい加減やめよう」という呉座先生の主張です。先の地域に固定した視点と同様、戦後のそういう史観で見てばかりいたことが、返ってこの乱の全貌を明らかにすることを閉ざしていたというような内容を呉座先生は繰り返し、しつこいくらいに言っています。「悪党の活躍」の過度な評価だとか、階級闘争(いわゆる下克上)によって民衆が歴史を動かすというのはかっこよく、ロマンチックに映るけれど、もっと根本的な人間臭い理由でこの乱は始まって、長引いて、終わったのだということです。そして、それを同時代の資料にあたって洞察していくことが徹底されていて、小気味良く、それが本書の魅力であるなぁと思いました。

以下、順不同です。

「中動態の世界 意思と責任の考古学」(國分功一郎著、医学書院):これもtwitterで目にしたのがきっかけ。「中動態」ってなんぞや?能動態と受動態以外に態が存在したというのがこれまた意外でしたが、その態が「自分の意思」、そこから生まれる「責任」に大きく影響を与えているということに着目したのが本書の探究するところでした。文法という一見人間の動作に無関係なものからはじまる「意思」とは何かという哲学的な問いは、ものごとを言葉や文字で表現することに興味を持っている人間にとってとても大切なことに思えて、どんどん読み進めていくことになりました。哲学的な内容に言語学的アプローチするという点が面白いのは面白いのですが、この言語学的な部分を咀嚼できないと先に進むのが難しいという点が唯一の難点かと。そのため繰り返し繰り返し、わからない部分を読む必要があり、実はまだ読み切っていません。。

「美しい日本のくせ字」(井原奈津子著、パイ・インターナショナル):もともとタイポグラフィに興味があって、文字が好きで、自分の同人誌でも書体選びや配置に凝っていたのですけど、昨年読んだ「よきかなひらがな」で紹介された看板などの手書き書体の魅力に気づいて、その関連で知ったのが本書です。こちらは看板などのパブリックなものよりもっと踏み込んだ個人の手書き文字がテーマ。帯に書かれている人以外では、ガムテープ文字の修悦体で有名な佐藤修悦さんの手書き文字(本書ではこれらをくせ字と呼称)が鮮烈でした。あの独特なガムテープ文字はガムテープで書くという特殊性から生まれた文字だと思っていたのですけど、もともとの佐藤修悦さんの書く文字があの字体そのものだったので驚きました。そして、よくあの緻密さで書けると思ったら、どうも文字を書くのが苦手でそれを克服するためにゴシック体を真似て丁寧に書くようになったのだとか。書くのにはもちろん時間がかかるので、本当は書きたくないとか、なんと意外!

ハプスブルク帝国」(岩﨑周一著、講談社現代新書):今、通勤のときに読んでいます。「応仁の乱」を読んでから歴史であいまいな部分を勉強しなおしたくなって。高校2年のときの担任が世界史担当だったのに、世界史の知識がすっぽり抜け落ちてるんですよね。苦手意識はなかったのですが、当時はあまり歴史そのものに興味がなくて、暗記に徹していた記憶があります。そのわりにはヨーロッパ史、本書に登場するハプスブルク君主国(著者によるとタイトルの「帝国」よりも「君主国」が現在の一般的な名称とのこと)に関する記憶が皆無なのは、ひょっとして習ってすらいないのでは??

 

 というわけでいくつか選んでみたのですが、共通するのは「意外性」でした。書いていて気づきました。歴史に関しては新しい資料や学説によって従来の見解と異なって行くことが最近加速しているようで、あと10年くらいしたらまたアップデートが必要かもしれませんね。

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