5月の下旬、公開日翌日にSF映画「メッセージ」を見ました。異星人の宇宙船がばかうけをモチーフにしたと監督がリップサービスをしたので話題になりました。異星人とのコンタクト、それもかなり謎めいた感じという映画はジョディ・フォスター主演の「コンタクト」以来かもしれません。「コンタクト」の原作は確かカール・セーガンで、学者らしい緻密で説得力とSF的想像力を掻き立てる内容になっていましたが、「メッセージ」も同様に謎解き主体ではあるのですが、雰囲気が随分と違いました。映画の構成が不思議といってもよい。それこそがこの映画の肝心なところなので具体的に言えないのですが。その構成の妙に次第に引き込まれていき、ハラハラドキドキを極力抑えたストーリーはいつしか、心の奥からとてもシンプルな感情を引き出し、胸を打つ終盤を迎えました。胸がスカッとするとか、謎が解けてスカッとするとか、そういうものよりももっと穏やかな気持ちでした。
原作小説である「あなたの人生の物語」はタイトルは知っていたものの*読んだことがなく、いつかは読もうかなーくらいの気持ちだったのですが、映画を見終わってから俄然興味が出てきて、文庫を買って読みました。長編ではなく短編集で、その中の一編が原作でありタイトルロールである「あなたの人生の物語」でした。中編の規模があります。これを読み終えたとき、思いました。ああ、映画と原作小説の両方を深く味わい、感動という余韻に浸るのは難しいと。これはよくある原作に比べて映画が劣っているという類の感想では決してありません。
どちらかしか「選べない」ということです。この2つはお互いがお互いを補完するようなものではないのです。原作をベースとするものの、2つは異なるものでそのどちらも素晴らしい。しかし、その素晴らしさは先に読んだ・見た方にはどうしてもかなわない。いや、どちらも読んだり・見たりするのはいいと思うのです。でも、同時に同じくらいの素晴らしさを味わうことはできないということをいやというほど思い知らされるのです。原作を先に読めばよかった、映画を先に見ればよかったということはなく、先に見た方の素晴らしさがより強く残る。こういう経験は初めてかもしれません。この「選ぶ」ということ、原作をお読みの方にはぴんとくるタームかと思います。
近作で映画も原作も素晴らしく、相乗効果を感じたものに映画「オデッセイ」があります。原作小説は「火星の人」。わたしは原作の方はあとから読みましたが(3回読んだ)、これはお互いが補完しあっています。映画を見た人は小説を読めばもっともっと楽しめるし、小説を読んだ人は映画の妙(つまり映像で見せることを主体とする)を味わうことができます。どちらから見て、読んでもいいし、どちらも読み、見る方がいいというなかなか稀有な映画・小説でした(たいがい映画の方が残念だったりしますよね?)。
しかし、「メッセージ」と「あなたの人生の物語」はそれとは全く違う関係性を持っていたのです。映画を先に見たわたしは、小説を読んだあとも映画の素晴らしさを否定することや、あら捜しのようなものをすることは全くなかったのですが、でも「小説を先に読んでいたら、この小説をどのように感じていただろう。この小説だけで味わえる深い感情があったはず」と思わずにはいられなかったです。おそらく、小説を先に読んで映画を見た場合は、逆の同じことを思ったでしょう。
当然、これはわたしの感想ですから、いやいやそうでもないよと思われる人も多いと思います。ようは核心部分について「ネタバレ」を知っているかどうかの話なのかもしれませんが、映画の独立性があまりにも高くて素晴らしい(原作と核心では変わらないがかなり描写が異なる)ため、単にそういうことではないような気がすごくしているのです。
どちらも未見・未読であるという人がいらっしゃったら、この感想を読まれたら、頭を悩ませることにもなるかなと思います。でも、その「選択」はもしかしたら、あなたの「必然」だったのかもしれないです。書いていて、今、自分でも得心がいきました。ああ、映画を先に見たという選択は私の必然だったのだと。何を言っているのかわからないと思いますけど、見れば・読めばわかっていただけるかもしれません。
映画「メッセージ」、小説「あなたの人生の物語」、強くおすすめします。
*注:アニメ「トップをねらえ2」の最終話タイトルとして有名ですよね?当然、製作者たちのオマージュなんですけど
以下、余談ですが劇場で見終わってから係の人にパンフレットをくださいといったら、どれが「メッセージ」のパンフレットからわからず、えーっとと探し回って、わたしの方が「ほらそれ、そこに入ってます」と指示するということがありました。写真の通り、パンフレットにタイトルが入っていないんですが、予告編にも出てくる宇宙船の切り抜きがあるんだからわかるでしょ!って思いましたよ。まったく!シネコンだから上映作品が多いですが、毎日仕事してたらどんな映画がやってるかくらいわかるというか、興味を持ちそうなもんですけど。ミニシアターとかの係員の人に比べると、シネコンの従業員とかバイトの人って映画に興味なさそうなのが残念に思うときがよくあります。。
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